
雨予報を見て、河口湖行きを取りやめようか迷っている日に読んでほしい話です。新宿から直通約1時間55分・片道¥4,130のこの町は、雨の日こそ本領を発揮するんですよ。湖面を打つ雨音、茅葺きに染みる薪の煙、湯けむりの向こうの灰色の湖。じつは、富士山がすっきり全容を見せてくれる日はだいたい3日に1日ほどしかありません。
早朝は晴れていても昼には雲がかかり、暖かい季節には何日も山が隠れたままということも珍しくない土地柄。湖の上の灰色の空は、運が悪いのではなく、いつもの河口湖に近い姿なんです。それでも、というより、だからこそでしょうか、この町を訪れる人は増え続けています。富士河口湖町の2024年の外国人宿泊者数は約75万6,000人。前年比31%増で、コロナ前のピークすら上回りました。毎週何千人もの人が、富士山が見える保証のないまま、ここで充実した一日を組み立てているわけです。雨の日はバスの席が空き、有名なフォトスポットから人が消え、個性のある屋内スポットを2〜3か所ゆっくり味わえる、別の顔の河口湖。以下は、雲を前提に組んだ一日のプランです。
予報に雨マークが出ると、つい延期したくなりますよね。でも、少し思い出してみてください。昼どきは立ち乗り必至の周遊バス、有名ほうとう店の30〜60分待ち、晴れた週末の駅前や大石公園の人混み──河口湖の混雑の悩みは、ほぼすべて晴れの日のものなんです。雨はそのほとんどを静かに洗い流してくれます。一方で、屋内でじっくり味わうタイプのスポットの魅力は、雨でも一滴も目減りしません。
もうひとつ、時間の巡り合わせの話も見逃せません。富士山の視界がいちばん澄むのは6:00〜9:00の朝で、雨の午後の翌朝は、洗われたような晴天になることが多いんです。つまり「雨の日に着いて1泊」は、むしろ理想的な組み立て。晴れ予報の日に11:00〜15:00に到着する日帰り客のほうが、結局山を見られずに終わることも多いくらいです。もともと運まかせだった眺望に最初からあきらめがつく分、雨の日のほうがかえってプランは立てやすいですよ。
特急「富士回遊」は新宿から河口湖駅まで直通約1時間55分、片道¥4,130。全席指定で、1日4往復と季節の臨時便しかありません。本数が少ないぶん人気の便は数日前に売り切れるので、行きだけでなく帰りの席まで押さえておくと安心です。バスタ新宿発の高速バスは約¥2,000–2,200と割安ですが、週末の中央道渋滞では3時間近くかかることもあり、雨の日はさらに読めなくなります。時刻どおりに走る電車に、割増料金を払う価値がある日というわけです。
現地では富士急の周遊バス(オムニバス)が頼りになります。レッドラインは湖の北岸・東岸を回って美術館方面へ、グリーンラインは西湖方面へ。駅で2日間乗り放題のフリークーポンが買えます。従来は2路線で¥1,700前後でしたが、料金は当日必ず確認を。レンタサイクルでの湖一周は、晴れの日には最高、雨の日には最悪のプランなので、今日のところは見送っておきましょう。
まずは北岸の森の中へ。雨に濡れた木立の奥に、ガウディを思わせる珊瑚と石灰の建物が現れます。久保田一竹美術館です。ひとりの作家が復元した「辻が花」染めの絹の着物が、富士と四季をテーマにした連作として並ぶ空間。じつは織物の色は、ギラつく晴天より、灰色の柔らかい光の下でこそ深く映えるんです。外国人観光客のレビューで「予想外のお気に入り」と評され続けているのも納得の場所。入館料は展示により¥1,500–1,800程度なので、ここを軸にするなら事前に公式サイトを確認してみてください。
次は、土砂降りでなければ、グリーンラインのレトロバスで25〜40分の西湖いやしの里根場へ。1966年の台風による土石流で失われた集落の跡地に、約20棟の茅葺き民家が再建され、和紙・陶芸・お香の工房が入っています。入場料は¥500で、工房の中なら濡れる心配もなし。雨に打たれる茅葺き屋根、濡れた杉の香り、薪の煙。ここはむしろ、雨の日にこそ訪ねてほしい場所です。
締めは隣の鳴沢村、「富士眺望の湯 ゆらり」で温まりましょう。洞窟風呂を含む湯は全部で16種類。料金は平日¥1,400・土日¥1,700で、駅周辺からシャトルバスも出ています。露天風呂は富士山に正対していますが、正直、たぶん見えません。それでも、冷たい雨のなかに立ちのぼる湯けむりに包まれるひとときは、見えない山の埋め合わせとして十分すぎるはずですよ。
雨はほうとう日和です。かぼちゃ入りの味噌仕立てで平打ちの小麦麺を煮込み、鉄鍋のままぐつぐつと湯気を立てて運ばれてくる郷土料理。駅から徒歩8分、大きな水車が目印の「小作」は、ひとり¥1,500–2,000の信頼の定番です。Googleレビューは約6,800件で4.2★。一方、白いドーム型の建物で有名な「ほうとう不動」のその支店は逆のケースで、建築は印象的なのに評価は3.7★と、同じ系列の他店舗をはっきり下回ります。建築を眺めるならここ、鍋を味わうなら別の店へ、と使い分けるのが正解です。
麺以外なら、駅近くでご夫婦が営むテーブル4卓の鉄板焼き店「鉄やき」へ。約1,400件のレビューで4.7★という、町でいちばんの高評価です。鉄板の音を聞きながら並ぶ行列は覚悟のうえで、日曜定休にもご注意を。もう一軒、築150年の茅葺き民家の囲炉裏端で串を焼く「山麓園」も捨てがたいところ。評価は4.3★でレビューは約1,700件、セットは¥2,500–4,500ほどです。最後に、日帰り客が毎度ひっかかる時間の罠をひとつ。この町の飲食店の多くは15:00〜17:00に中休みを取り、21:00には店じまいします。町でいちばん安くて本物の一食、「たけ川」の吉田うどん(¥600–900)を狙うなら、ランチの時間帯にどうぞ。
雨が降ってもアクセス事情は変わりません。富士回遊の座席も帰りのバスも、天気に関係なく売り切れます。しかも東京行きの最終は、思っているよりずっと早いんです。
河口湖へのアクセス完全ガイドを見る河口湖の経済は、自分ではどうにもならない「眺望」を中心に回っています。コンビニ前のフォトスポットに人が殺到し、町が目隠し幕を張ったことがあるほど。でも編集部は、この町では「天気に左右されない場所」の値打ちが、まだ正しく知られていない気がしています。世界水準の染織美術館、再建された茅葺きの集落、気軽に入れる温泉──空が閉じるたびに、どこも席を余らせたまま開いているのですから。雨の平日の河口湖は、この地域で過ごせる一年でいちばんお得な一日かもしれません。
正直な話もひとつ。旅の目的が富士山の写真そのものなら、雨の日帰りはまず期待外れに終わります。その場合の正解はキャンセルではなく、日帰りを1泊に切り替えて、朝6時の勝負どころに賭けること。視界の確率がもっとも高く、湖畔が一年でいちばん静かな時間帯ですよ。
富士山さえ期待しなければ、むしろおすすめです。久保田一竹美術館、西湖いやしの里根場の茅葺き集落、「ゆらり」などの日帰り温泉、湯気の立つ鉄鍋ほうとうで、中身の濃い一日が組めますよ。しかも、ふだんのバスや飲食店の行列はほぼ消えます。
降っている間はほぼ見えず、雨上がりも低い雲が残りがちです。晴れの日でも山の全容が見える日は少数派で、狙い目は早朝の時間帯。晴れ間が出たらもうけもの、くらいに構えておくのが正解ですよ。
富士急の周遊バスが頼りになります。レッドラインは湖の北岸・東岸を回って美術館方面へ、グリーンラインは西湖まで。駅で買える2日間フリークーポンで両方カバーできます。スポット間の徒歩移動や約20kmの湖一周サイクリングは、晴れの日のお楽しみに取っておきましょう。
富士山の写真だけが目的なら、延期するか1泊に切り替えて、視界の確率がもっとも高い朝6:00〜9:00を狙ってみてください。それ以外なら決行で大丈夫です。富士回遊の座席は売り切れるので往復とも予約し、屋内スポットと温泉を軸に組み立てるのがおすすめですよ。