
湖のほとりに立って、雲がすっとほどけ、富士山が現れる瞬間を待つ。そんな一日が、新宿から直通約1時間55分・片道¥4,130で手に入ります。ただ、くっきりした山に会えるのは「およそ3日に1日」、しかもチャンスは早朝にほぼ限られるのが正直なところ。それでも2024年の富士河口湖町は、外国人宿泊者数が約75万6,000人と、前年比31%増の過去最高を記録しました。
コロナ前のピークだった69万2,000人を超える人出が、昼にはたいてい雲に隠れる眺めをめがけて集まっている——そう聞くと、少し不安になりますよね。でも、だからやめておこう、という話ではないんです。山が一度も姿を見せなくても楽しい一日を先に組んでおいて、晴れた朝が来たら「もうけもの」として受け取る。河口湖は、そのくらいの構えで歩くのがちょうどいい土地ですよ。
雲は、日が高くなるにつれてもくもくと湧いてきます。東京をのんびり出て11:00〜15:00に着く日帰りだと、ちょうど山が隠れる時間帯への到着になってしまうんです。人の波もほぼ同じ動きで、週末の日中は河口湖駅周辺、有名な「ローソン撮影スポット」、大石公園が混み合うと、町が公式に注意を呼びかけているほど。つまり何も考えずに立てた計画は、「いちばん見えない時間」と「いちばん混む時間」を同時に引き当てやすいというわけです。
季節のずれも、初めてだと想像以上に大きいもの。富士山の冠雪は例年10月に戻り、湖畔の紅葉の見頃は11月上旬から中旬と、多くの観光地よりずっと遅めです。9月下旬にモミジを期待して行くと、出迎えてくれるのはコキアとススキ。モミジの本番は11月で、中心になるのが「富士河口湖紅葉まつり」です。もみじ回廊と呼ばれる約150mの大モミジのトンネルが夜はライトアップされ、約1か月ものあいだ湖畔をあたたかく照らしてくれますよ。
特急「富士回遊」なら新宿から乗り換えなし、約1時間55分・片道¥4,130で湖畔に立てます。ただし1日4往復のみの全席指定で、人気の便は数日前に売り切れてしまうんです。バスタ新宿発の高速バスは約¥2,000–2,200と節約派の本命で、時刻表の上では所要もほぼ互角。とはいえ週末の中央道は渋滞しがちで、2時間の道のりが3時間近くに延びる日もあります。どちらを選ぶにせよ、帰りの便だけは必ず事前予約を。東京へ戻る実用的な最終便は夕方から夜の早い時間までと、多くの人が思うより早く終わってしまいます。
町に着いたら、湖を巡る観光バス「オムニバス」が基本の足になります。河口湖畔を回るレッドラインと西湖方面のグリーンラインの2系統ですが、ハイシーズンの日中は立ち乗りが当たり前の混みようです。北岸だけならレンタサイクルのほうが速いことも多く、湖一周は約20km・ほぼ平坦。湖風を切って走れば、移動そのものがちょっとした観光になってくれますよ。
ご当地グルメは、寒い土地ならではの湯気の立つものばかりです。カボチャと味噌でくつくつ煮込む平打ち麺「ほうとう」と、馬肉とすりだねの辛味が効いた強烈なコシの「吉田のうどん」が二枚看板。ほうとうなら駅近くの「甲州ほうとう小作」(Googleレビュー6,789件で4.2★)が堅実な選択です。白いドーム型の建物で有名な「ほうとう不動 東恋路店」は評価3.7★と系列の他店舗より低めで、つまり皆さん、麺ではなく建築を目当てに選んでいるわけですね。
静かな実力店は、小さな店にぎゅっと集まっています。夫婦2人で切り盛りする、4卓だけの鉄板焼き「鉄焼」。レビュー数のある店では町内最高評価です(1,374件で4.7★)。鉄板の音を聞きながら並ぶ行列は覚悟のうえで、日曜定休にだけご注意を。「たけ川うどん」は¥600–900と界隈でいちばん安く本物の食事ができる店で、営業は昼のみです。「山麓園」は築150年の茅葺き民家の囲炉裏で、自分で串を焼くスタイル。立ちのぼる煙の香ばしさまでごちそうのうちです(4.3★、1,666件)。ひとつだけ覚えておきたいのは、多くの店が15:00〜17:00に中休みを取り、20:00には店じまいすること。夕日まで湖畔で粘るなら、夕食は早めに済ませておくのが安心ですよ。
バスでもう少し足を延ばす価値のある体験が、2つあります。ひとつは「西湖いやしの里根場」。グリーンラインで25〜40分の距離にある、約20棟の茅葺き民家の村です。1966年の台風による土石流で失われた集落を再建した場所で、薪の煙の匂いに包まれながらのクラフト体験と、湖畔より格段に少ない人出が¥500で手に入ります。もうひとつは、隣の鳴沢村にある日帰り温泉「富士眺望の湯 ゆらり」(平日¥1,400、土日祝¥1,700)。露天風呂が富士山に真正面から向いていて、寒い朝の観光でこわばった体が、お湯の中でゆっくりほどけていきます。正直、このエリアでいちばん元の取れる1時間だと思いますよ。
この町の混雑騒動の正体は、要するに「みんなが同じ数時間に集まってしまう」ことです。象徴になったのが、2024年に「富士山ローソン」の撮影を遮るために設置され、以来設置と撤去を繰り返している黒い幕。何千人もの人が、同じ昼の数時間に、同じ一枚の画を追いかけているんですね。ところが統計をのぞいてみると、過去最高の人出を引っぱっているのは日帰りではなく、宿泊のほう。旅の組み立て方そのものが、静かに変わり始めているのだと思います。泊まった人は、6:00〜9:00の晴れ間と、誰もいない湖畔の朝と、店が閉まる前のあたたかい夕食を手に入れる。日帰りの人は、雲に覆われた残りの時間を分け合うことになります。もし1泊の余裕があるなら、河口湖は運まかせの一発勝負から、分のいい賭けに変わりますよ。
丸1日あれば、大石公園、ロープウェイ、新倉山浅間公園(忠霊塔)はひと通り回れます。ただ、富士山がいちばんくっきり見えるのは朝6:00〜9:00頃で、東京からの日帰りではこの時間に間に合わないんです。日数を足すより、日帰りを1泊に変えるほうがずっと効きますよ。
主役が隠れると寂しいのは事実ですが、それでも行く価値はあります。久保田一竹美術館、ほうとうのランチ、根場の茅葺き集落、日帰り温泉ゆらりを組み合わせれば、曇りの日でも満ち足りた旅程になりますよ。予報がべた曇りで日程に融通が利くなら、思い切って日にちをずらすのが正解です。
富士山をくっきり見たいなら、冬の朝がいちばんです。紅葉なら11月上旬から中旬と日本の多くの地域より遅く、ちょうど、もみじ回廊の紅葉まつりが開かれる頃。6月下旬〜7月には大石公園のラベンダーも加わります。どの季節でも、週末の日中を外すのが賢い歩き方ですよ。
1人あたりおよそ¥10,000–14,000が目安です。往復交通費は電車かバスかで¥4,000–8,300、そこに周遊バスのフリーパスとロープウェイ¥1,000が加わります。食事はほうとうや鉄板焼きで¥1,500–2,500ほど。湖そのものと主要な展望スポットの多くが無料なのは、うれしいところです。