
空港のざわめきから離れて、一駅ぶんだけ深く旅した気分になりたい日に。成田の門前町は都心から片道60〜80分・約1,240円、しかも空港から徒歩15分の近さです。表参道の坂を下れば、うなぎを焼く炭の匂いと太鼓の低い音が、どこからか漂ってきます。乗り継ぎのついでで片づけるにはもったいない、年間1,000万人が手を合わせて初詣客は全国2位という、空港の裏にたまたま立つ本物の目的地なんです。
組み立て直しのヒントは、混み方のクセにあります。実は年間1,000万人のうち300万人超が、1月のたった最初の3日間、初詣にどっと集まります。残りの山も、梅と紅葉の祭りにきれいに寄っている。園内360本ほどの梅がほころぶ梅まつりは2月中旬から3月上旬、約250本のもみじや楢、銀杏が燃える紅葉まつりは11月中旬からの2週間ほど。この波さえ外せば、300万人の殺到に耐えるよう造られた寺が、驚くほどのゆとりで迎えてくれます。訪れる側には、これ以上ない朗報ですよ。
もうひとつは、地理が拍子抜けするほど親切なこと。見どころは、まるごと徒歩15分の一本道に収まります。JRと京成の成田駅は5分ほどの距離に肩を並べ、そこから旧参道の表参道が、寺の門へ向かってゆるやかな下り坂で続く。数字で眺めると、景色が少し変わります。難所は成田まで来ることでも歩くことでもなく、昼どきに表参道の行列が厚くなる前に歩き切る「時間の取り方」だけ。境内は無料で、入場ゲートすらありません。奪い合いになる唯一の宝は、静かな一時間なんです。
都心からのまっとうな道は2本、どちらを選ぶかは出発地で決まります。京成上野からならアクセス特急が京成成田までおよそ60〜75分、運賃は約¥1,240。JR派なら総武線の快速が東京駅からJR成田まで約1時間20分、こちらは約¥1,340です。ひとつだけ、名指しで避けたい落とし穴があります。京成の看板列車スカイライナーは空港のために生まれた特急で、門前町には実質停まりません。追加料金を払って成田山を目指すのは、お金の向きを間違えているんです。
乗り継ぎの合間なら、話はもっと軽い。成田の街は空港から東京方面へ、たった2〜3駅戻るだけです。東京往復ではなく、短くて安いひと区間。まず荷物を預けて身軽になり、レーンが静かなうちに表参道を門まで下ってしまいましょう。そして昼食へ向けて坂を上り返す頃、背中で人波がむくむく育っていく。この段取りが、じわりと効いてきます。
成田の偽らざる看板は、うなぎです。淡水のうなぎを店先で割いて串を打ち、炭でこんがり蒲焼きにして、漆の箱にうな重として収める。表参道は何世代も、この所作を繰り返してきました。どの暖簾をくぐるかが、そのまま好みの分かれ道になります。1910年創業、観光案内所の向かいに立つ川豊本店はいちばんの有名店。店先でうなぎを割く手さばきが名物で、混む週末には名声ゆえの整理券の列がつきものです。すぐ近くの駿河屋も店頭で仕込みますが、落ち着いた座敷が身上で、静かに炭火と向き合いたい日の一軒。川豊と並んで伝説と語られる菊屋は、うなぎ一本槍でないグループにうれしい、きちんとした定食まで揃えます。
ここでの時間割の教訓は、すごく具体的です。昼どきの川豊の行列は、一日でいちばん避けやすい摩擦。だから、早めにさっと食べてしまうか、駿河屋へ流れる。手みやげ派には、表参道の看板和菓子店・なごみの米屋(米屋總本店)が待っています。羊羹に、ピーナッツ最中に、どら焼き。甘い香りの前で、つい財布がゆるみますよ。
寺の門は、それだけで一枚の絵葉書。でも、ほんとうに満たされる成田は、中に入って足を止めた人にだけ開きます。ぜひ時間を合わせたいのが、大本堂でのお護摩、火の儀式です。不動明王の前で、太鼓の拍に合わせて木の護摩木を炎にくべる、約千年つづく真言の法要。平日はおよそ一日5回、週末はもっと多く焚かれ、見学は無料です。立ちこめる煙と杉の香り、腹に響く太鼓の音の壁——乗り継ぎ客の多くが素通りして、あとで悔やむ瞬間がこれ。より静かな裏返しの体験として、筆で経をなぞる写経も授けてくれますよ。
本堂の裏手には、約165,000平方メートルの成田山公園が広がります。ここは、季節の数字がまるごと報われる場所。11月にもみじが色づけば、龍智の池と浮御堂で琴や尺八、二胡の音色が水面をわたり、週末には石照庵の茶室で無料の茶会もひらかれます。園内の書道美術館は、古代中国の書から現代作まで6,000点超を静かに抱えています。そして江戸の参道を当時の装いで歩きたいなら、表参道からすぐの成田観光館(まちかどふれあい館)が水曜から金曜、約¥800で着物を貸してくれます。出かける前に、開いている時間だけ確かめておくのが安心ですよ。
最後は、少し天邪鬼な読みを。成田を「おまけ」に見せているもの——つまり空港の街という顔つき——が、じつはこの街を使い切れないままにしているんです。1,000万人が門をくぐりますが、その多くは正月と祭りの週末に集まる国内の参詣者。徒歩15分の場所を流れていく海外の旅行者では、案外ありません。需要はとがっていて、しかも偏っている。だからこそ、この格の寺にしては、ピークを外した時間帯が拍子抜けするほど空いています。
個人的には、成田を「埋めるべき待ち時間」として扱うのはもう卒業して、「短く、狙いを定めた午前」として味わうのが正解だと思います。早い京成か総武の列車に乗り、うなぎの列ができる前に表参道を門まで下り、お護摩の炎に立ち会って、うな重は早めにいただく。公園と書道美術館は、あえて昼どきのために取っておく。初詣そのものが目当てでないなら、1月三が日はそっと外す。そうすれば、全国2位の混雑を誇る寺を、ちゃんと息のできる余白とともに歩けますよ。
半日あれば、街をゆったりひと巡りできます。成田山新勝寺に、火の護摩、表参道のうなぎランチ、締めに成田山公園まで。寺はJR・京成成田駅から徒歩約15分、都心からも電車で60〜80分の近さなので、長めの乗り継ぎでも、慌てずに本物の訪問として成り立ちますよ。
あります。日本のどの空港からでも、いちばん手軽で満足度の高い抜け出し先のひとつです。成田山新勝寺は年間1,000万人以上が訪れ、初詣客数は全国2位。それでいて、ターミナルから歩いて15分の近さです。荷物を預けて東京方面へ2〜3駅戻れば、寺とうなぎの小さな周遊が、数時間にすっと収まりますよ。
祭りの時期を外した、平日の午前です。いちばん混むのは1月最初の3日間の初詣で、その数は300万人以上。次いで2月中旬から3月上旬の梅まつり、11月中旬から下旬の紅葉まつりが続きます。どれも見ごたえは十分ですが、静けさが目当てなら、こうした週末を避けて、午前遅めのランチの波が来る前に表参道を歩いてみては。
境内もお護摩も無料なので、財布から出ていくのは主に交通費とランチくらいです。東京からの往復電車は、およそ¥2,500〜2,700(京成で片道約¥1,240、JR総武快速で約¥1,340)。ここに表参道のうな重、手みやげの羊羹、気が向けば¥800の着物レンタルを足しても、ゆとりのある半日は、まだ十分に控えめな出費で収まりますよ。