
「成田」と聞いて浮かぶのが空港のほうなら、途中でひと駅、寄り道してほしい場所があります。東京から片道約60分・約¥1,240、滑走路の手前で降りれば、そこは千年続く門前町。改札を抜けて表参道をゆるやかに下ると、うなぎを焼く炭の香りが人より先に迎えてくれる。坂の下で待つのは、年間1,000万人超が訪れる成田山新勝寺です。
成田は「お寺のついた空港」だと思われがち。でも参拝者データは、その順番をひっくり返します。成田山新勝寺に手を合わせる人は、年間1,000万人超。正月三が日の初詣だけで300万人以上が集まり、これは都心の明治神宮に次ぐ全国第2位の初詣客数です。西暦940年に開かれた霊場が、空港のおまけでこの数を集めるはずがありません。ここは、たまたま隣に国際空港があるだけの、正真正銘の目的地なんです。
読み解きはシンプルです。人出は本物で、しかも一年の中で偏っている。正月は暦からして混雑のかたまり。梅がほころぶ晩冬も、紅葉に染まる11月も、祭りの週末ごとにピークをつくります。だから問いは「どの路線か」から「どの日の、何時に着くか」へと形を変えるんです。ルート選びより、日付選びのほうがずっと効いてきますよ。
正直に比べると、京成とJRの差は数分と100円ほど。運賃で悩む場面ではありません。決め手は出発地です。上野側からなら京成、東京駅からならJR総武快速。そして「とにかく速く」の誘惑は、ここでは手放してしまいましょう。スカイライナーの見出しの所要時間は空港に着くまでの数字で、寺までの数字ではないんです。ターミナルから引き返せば、その速さの貯金はきれいに消えてしまいます。どちらの成田駅からも、寺までは表参道を徒歩約15分。駅どうしも5分ほどしか離れておらず、乗る駅を間違えても歩いてすぐ立て直せますよ。
この徒歩15分は、駅と寺をつなぐ「空白の時間」ではありません。むしろ、あえて遅いほうの町行きに乗る理由そのもの。表参道は江戸時代から続く参道で、その代名詞はうなぎです。1910年創業、観光案内所の向かいに構える川豊本店では、店先の路上で職人が鰻をさばき、串を打つ手つきに足が止まります。蒲焼は漆塗りのうな重で、肝吸いを添えて。炭とタレの香ばしい煙が、店構えより先にふわりと届いてきますよ。混み合う週末は整理券制の行列になるので、早い電車の理屈は昼ごはんにもそのまま効いてきます。
行列が長い日でも、通りには一軒ごとに名所と呼べる店が並びます。駿河屋も店先で鰻をさばき、より静かで昔ながらの一杯を出してくれる。菊屋は川豊と並んで、町きっての名店として名が挙がります。持ち帰りなら、表参道の米屋總本店(なごみの米屋)が成田を代表する和菓子の作り手。羊羹にピーナッツ最中、どら焼きで知られ、季節には和菓子作りの体験教室も開いています。お土産を「味」だけでなく「技」として持ち帰りたい日に、ちょうどいいですよ。
手間をかけて来たぶん、寺はちゃんと応えてくれます。成田山新勝寺は不動明王を本尊とする真言宗の霊場で、その心臓は御護摩祈祷です。大本堂で本尊の前に護摩木を焚く、およそ千年続く儀式。炎が立ち上がり、太鼓と読経が体に響いてくる。平日は一日およそ5回、週末や5月・9月の最盛期にはさらに増え、拝観は無料。だから到着時刻を護摩焚きに合わせるのが、予定づくりでできる最良の一手です。静かに過ごしたいなら、手で経を書き写す写経を。ただ眺めるのではなく「する」ことのできる場所なんです。
大本堂の裏手には、約165,000平方メートルの成田山公園が広がります。ここの暦が、町の季節を動かすエンジン。紅白の梅、約360本が2月中旬から3月上旬ごろの梅まつりに香り、春の先ぶれを告げます。秋には約250本のもみじや楢、銀杏が11月15〜30日ごろの紅葉まつりに燃え、龍智の池には琴と尺八の音が渡っていく。週末には石照亭の茶屋で無料の茶会が開かれ、6,000点を超える収蔵品の書道美術館もそのすぐ先にあります。もうひと味ほしいなら、表参道のそば、まちかどふれあい館の着物レンタルが約800円。古い参道を、その装いで歩いてみては。
最後に、あえて逆張りの見方をひとつ。成田の年間1,000万超の人出は、一年に均されてはいません。初詣と祭りの週末にぐんと跳ね、ふだんの日はそのかなりが、フライトの合間に数時間をつぶす旅行者。この人たちは、寺の門と川豊の行列より奥へは、めったに足を延ばしません。だから静かな愉しみ、たとえば大本堂での写経や公園の裏道、書道美術館は、表参道がにぎわう日でも穏やかなまま残っているんです。
歩いていて感じるのは、一日の早い時間はほとんど誰のものでもない、ということ。遅い午前の乗り継ぎの波が来る前に町行きの電車へ乗れば、最初の護摩焚きも、うなぎのカウンターも、梅やもみじの小道も、しばらくは独り占めできます。まだ仮説の域は出ませんが――東京から成田への賢いルートとは、最速の電車ではなく、正しい電車を早い時間に、町へちゃんと開いている駅まで乗ること。結局、それに尽きる気がするんです。
京成上野から京成アクセス特急・特急で京成成田へ、約60〜75分・約¥1,240。または東京駅からJR総武線快速でJR成田へ、約1時間20分・約¥1,340。どちらの駅も表参道の起点にあり、寺までは徒歩約15分の下り坂です。まっすぐ門前町に着けますよ。
町へ行くなら向きません。スカイライナーはターミナルへ着くための空港特急で、成田山行きではないんです。寺へは京成アクセス特急・特急、またはJR総武快速で成田の町の駅へ。行きたい場所に、そのまま降り立てます。
電車でひと駅ほどです。乗り継ぎの合間なら、ターミナルへ乗り越さずに京成成田かJR成田まで引き返しましょう。寺はそこから徒歩約15分なので、フライトの空き時間のちょっとした参拝も十分に成り立ちますよ。
正月の初詣、1月1〜3日はできれば避けたいところ。この時期の寺は300万人超を集め、明治神宮に次ぐ全国2位の初詣客数になります。梅の季節、2月中旬〜3月上旬や、秋の11月15〜30日ごろの祭りの週末もピーク。狙い目は平日の早い電車で、乗り継ぎ客が増えてくる遅い午前より前です。