
成田と聞いて、飛行機に乗る場所しか思い浮かばない――そんな人ほど、一度は改札の外に出てみてほしい町です。東京から片道およそ60〜80分、運賃は約¥1,240〜1,340。駅を出て表参道を15分ほど下れば、鰻を焼く香ばしい煙にふわりと包まれます。その先に静かに構える成田山新勝寺は、年間1,000万人以上が参拝に訪れ、正月三が日だけで300万人を超える、明治神宮に次ぐ全国第2位の初詣どころ。
だから成田を日帰りで楽しむコツは、空港のそばで時間をつぶすことではありません。フライトの行き帰りに、本格的な門前町へ寄り道すること。そして1月初旬に集中する300万人のピークを、上手に外すこと。この二つさえ押さえれば、乗り継ぎの数時間がそのまま小さな旅に変わります。
一日の組み立てを左右する数字が、二つあります。一つは、歩いて回れるコンパクトな中心部に、年間1,000万人が集まるという事実。新勝寺は西暦940年の開基とされる真言宗の霊場で、不動明王を祀ります。本堂の裏手には約165,000平方メートルの成田山公園が広がり、午後の半日でぐるりとひと巡りできるループに、これだけの中身が詰まっているんです。着いてから広さに追われることも、乗り換えを気にすることもありません。
もう一つは、計画の前提にしたい数字――初詣のピークです。1月1〜3日で300万人超という混雑は、それが目的でない限り「いつ来てはいけないか」をはっきり教えてくれます。裏を返せば、残りの50週。平日を選べば、めったに人で溢れない門前町を独り占めできて、表参道は鰻を焼く香りだけが立ちのぼる、静かな古い参道に戻りますよ。
都心からの行き方は、二つが妥当です。京成上野からのアクセス特急なら、京成成田までおよそ60〜75分、運賃は約¥1,240。東京駅からのJR総武線快速なら、JR成田まで約1時間20分、約¥1,340です。ここで気をつけたいのが「乗ってはいけない列車」。スカイライナーは空港ターミナル行きで、門前町には向かいません。
二つの駅は徒歩5分ほどの近さで、新勝寺はどちらからも表参道を15分ほど下ったところにあります。そして成田を特別にしているのが、空港からの一区間。ターミナルで京成の普通電車に乗れば、京成成田までわずか10〜15分です。長くて持て余すはずの乗り継ぎ時間が、れっきとした小旅行に早変わり。お寺と参道、そして鰻ランチには、フライトの合間に最低でも3〜4時間を見て、帰りの保安検査の余裕も忘れずに足しておきましょう。
成田を代表する一皿は、なんといっても鰻。表参道では100年以上、この道沿いで鰻が焼かれ続けてきました。その象徴が、観光案内所の向かいに構える川豊本店です。1910年創業のこの店では、店先で職人が鰻をさばき、串を打つ手さばきがそのまま見られます。やがて漆塗りの重箱に、香ばしい蒲焼の鰻重と肝吸いが収まって戻ってくる。週末は行列が長く、繁忙期には整理券が出るほどです。だからお寺の後まわしにせず、参道を下る道中でランチの目星をつけておくのが正解ですよ。
川豊の行列が乗り継ぎのリズムに合わないなら、質を落とさない別の一軒もあります。同じ老舗の駿河屋は、店先で炭火焼きの鰻を出していて、もう少し落ち着いた雰囲気。菊屋も、川豊と並んで町屈指の鰻の名店に数えられます。お土産にするなら、和菓子の名店・なごみの米屋(米屋總本店)へ。羊羹にピーナッツ最中、どら焼きが揃い、自分で作ってみたい人には季節の和菓子づくり体験教室も用意されていますよ。
日帰り客が見落としがちなのは、新勝寺が写真の背景ではなく「今も生きているお寺」だということ。しかも見どころには、時間の決まったものがあります。御護摩祈祷は、大本堂で不動明王の前に護摩木を焚く、約1,000年つづく真言宗の儀式。平日でおよそ1日5回、週末や5月・9月にはもっと頻繁に行われます。拝観は無料。炎と読経に空気が震えるその時間に合わせれば、旅の記憶はぐっと濃くなるはずです。もっと静かに過ごしたいなら、写経もありますよ。経を一心に書き写す1時間が、人々が千年も通いつづけた理由を、そっと語りかけてきます。公園内の成田山書道美術館には、古代中国から現代までの書が6,000点以上収められています。
本堂の裏手に広がる公園は、季節をくっきりと映します。紅白あわせて約360本の梅が、2月中旬から3月上旬ごろの梅まつりに咲きそろい、カエデやナラ、イチョウの古木が約250本、11月15〜30日ごろの紅葉まつりで一斉に色づく。会期中は龍智の池のほとりで琴と尺八の音が流れ、週末には石照庵の茶室で無料の野点が楽しめますよ。
歩いてみて気づくのは、江戸の風情を残すこの参道そのものが、目的地への通り道ではなく、ひとつの体験だということ。表参道のすぐ脇にある町かどふれあい館(水〜金、およそ10時〜15時)では、大人一人約¥800で着物が借りられます。装いを整えて古い石畳を歩けば、同じ散策の意味あいがふっと変わりますよ。
ほとんどの人が成田を「通過する場所」として扱っている。実は、それがこの町のよさを守っているのだと思います。もし年間1,000万人を集めるお寺が首都圏のどまん中にあったら、きっと今ごろは整備が行き届き、入場券の必要な観光地になっていたはず。成田がゆるやかでいられるのは、人の流れが「立ち止まらないで」とせかす空港を、すぐ隣に抱えているからなんです。
考えてみると、これは案外よくできた話です。ベルトコンベヤーから3〜4時間だけ降りた旅行者は、初詣の時期さえ外せば、小さな名所ほどの人出で、これほど大きな名所を味わえてしまう。京成でひと駅入って、ループをゆっくり歩き、正午前に鰻をほおばり、御護摩を一座ながめて、あとは公園に身をあずける。出発案内板が決して教えてくれない、もう一つの成田に出会えるはずですよ。
半日あれば十分です。電車は片道およそ60〜80分。表参道と成田山新勝寺、その裏手の公園、それに鰻ランチという中心のループは、現地の3〜4時間にゆったり収まりますよ。
はい、日本でも屈指の乗り継ぎおでかけスポットです。ターミナルから京成の普通電車で、京成成田まで約10〜15分、運賃はおよそ¥250〜270。お寺を見て、参道を歩き、食事もして、帰りの保安検査の余裕まで含めると、フライトの合間に最低でも3〜4時間を見ておきましょう。
ねらい目を外したいのは1月初旬。成田山は1月1〜3日の初詣に300万人超が集まる、日本で2番目に混みあう正月の参拝地です。それ以外なら、平日はおおむね穏やか。梅の季節(2月中旬〜3月上旬)と紅葉(11月15〜30日ごろ)は人出が増えますが、その景色は時期を合わせる価値がありますよ。
電車の往復は、都心からおよそ¥2,500〜2,700。片道でみると京成が約¥1,240、JRが約¥1,340です。お寺の拝観は無料で、主な追加出費は表参道の鰻ランチくらい。着物レンタル(約¥800)や写経といった体験を加えても、ぐっとお得な一日ですよ。