富士山のグルメ記事は、たいてい雪の稜線を主役にして、昼ごはんを『絶景に添える一杯』くらいの扱いで終わります。でも、順番はきっと逆なんです。新宿から片道約1時間53分、¥4,130。着いてまず鉄鍋の湯気に顔を包まれると、気づきます——ほうとうも吉田うどんも、そもそも富士山のせいで米が育たず、人々が小麦へ追いやられて生まれた料理だと。冷たい空気と火山灰の薄い土が、稲作ではなく小麦を選ばせました。景色と料理は同じ火山から生まれて、しかも器のほうが、はるかに古い物語。
ほうとうは、山梨を代表する一皿。よらず(ねじらず)に打った平打ちの小麦麺を、かぼちゃや根菜をたっぷり溶かした味噌仕立ての汁にそのまま落とし、鉄鍋でぐつぐつ煮込んで供します。食感が、そのまま歴史を語ります。うどんのように塩を打って寝かせず、生のまま汁に沈めるから、汁じたいがとろみを帯びてシチューのようになる。麺が汁に浮くのではなく、麺と汁がひとつに溶け合うんです。鍋ひとつで無駄なく、寒い山の夜をしのぐカロリー。まさに農家の知恵ですね。一鍋はおよそ¥1,200〜1,800で、写真で見るよりずっしり重い、というのが正直なところ。
富士吉田に伝わる吉田うどんは、生い立ちがもっと具体的。地元の言い伝えでは、始まりは大正から昭和初期の織物景気でした。女性が一日じゅう機(はた)に向かうから、昼に機械を止めずに済むよう、男衆が生地を打ってうどんを商った。力いっぱいこねた麺はとびきり硬く仕上がり、『日本一コシが強い』とも呼ばれます。ここで『肉』といえば牛ではなく馬——甘辛く煮た馬肉で、富士吉田の古い馬市の名残です。これに茹でキャベツと、胡麻唐辛子のすりだねという薬味を添えて完成。どちらも観光のために作られた料理ではありません。土地が人に食べさせた、その結果なんです。
食べ歩きのほぼすべては、河口湖のまわりで起こります。そして、どう着くかで、いつ食べられるかまで変わってくるんです。特急『富士回遊』なら新宿から河口湖まで直通で約1時間53分、およそ¥4,130(全車指定席)。運賃を抑えたいなら新宿発の高速バスが約¥2,000〜2,200、所要は約1時間45分ほど。JR中央線で大月まで行き、富士急行に乗り継ぐ手も、約2時間で着く節約ルートです。
着く時刻を気にすべき理由は、単純に人の量です。富士箱根伊豆国立公園ぜんたいでは年間数千万人規模が訪れ、その圧力は決まった見どころのタイミングで跳ね上がります。象徴が、富士吉田の春の桜。にぎわいはたった一年で四倍以上にふくらみ、約60,000人から約270,000人へ。市が交通整理員を約50人も置き、話題の『富士山ローソン』の撮影スポットに黒幕を張って、人の流れをいったん断ち切ったほどです。湖畔のほうとう店は、まさにこの人波のただ中にあります。打つ手はもう見えています。とにかく早く食べること。11時半のほうとうは静かな昼食。同じ一鍋を晴れた土曜の午後1時に頼めば、それは行列という意味です。
まずは、誰もが名を挙げる一軒から。『ほうとう不動』は最も知られたほうとう専門店で、河口湖のまわりに4店舗を構えます。電車を降りてすぐなら河口湖駅前店が便利。いっぽう東恋路店は建築めぐりの趣で、白い雲のような洞窟状の建物そのものが、もう撮影対象になっています。ほうとうは飾らない王道。味噌、かぼちゃ、あの幅広の麺。湯気ごと甘い味噌の香りに包まれて、余計な演出はいっさいありません。まずはここで一杯、というのが安心の選び方ですよ。
メニューの幅がほしいなら『甲州ほうとう小作』。河口湖駅近くの大きな水車が目印で、ぐつぐつの鉄鍋に鴨、きのこ、辛口のカルビ入りなど十数種がそろい、全員が同じ鍋を望まないグループにぴったり。ひと味こだわった一杯なら『ほうとう蔵 冨成(ふなり)』へ。鮮やかな黄金色の汁を主役に据え、昇仙峡のほうとうコンテストで何度も頂点に立っています。絶景の合間の『燃料』ではなく、食事そのものを目的にしたい日に、予約して向かいたい一軒です。
富士山グルメは、鉄鍋だけじゃありません。『富士山パノラマロープウェイ』で登る天上山公園の山頂カフェは、民話『カチカチ山』にちなんだたぬきとうさぎがテーマ。富士山ブランドのみたらし団子、甘い醤油だれをまとった焼き団子を、湖まで1,000メートル落ちていく眺めの上でほおばれます。ただ、正直な注意がひとつ。ロープウェイは2026年5月11日から7月15日まで、整備のため運休します。この初夏に訪れるなら、カフェはいったん選択肢から外れる。ここを軸に一日を組む前に、ひと言確認しておく価値がありますよ。
食もまた、季節でしなります。6月中旬から7月中旬は、湖の北岸に広がる大石公園のラベンダーの香りの帯が、水面の向こうの富士を額縁のように切り取ります(入園無料、隣の自然生活館で軽食も)。もっと変わり種がよければ、鳴沢氷穴と富岳風穴へ。青木ヶ原樹海に残る、太古の噴火が生んだ溶岩洞で、氷穴は一年じゅう凍りつくほど冷えます。8月でも一枚羽織るものを持って、帰りに熱い一杯で温まり直す。料理も、花も、洞窟も、ぜんぶ同じ火山の三つの表れなんです。
最後に、逆張りの読みをひとつ。富士山の看板の数字は、やっぱり登山です。2024年シーズンの登頂者は約204,000人、一日にすればおよそ2,200人。吉田ルートは今や一日4,000人の上限つき。保全協力金も、2025年に一人¥4,000へ上がりました。天候に振り回される、きつい二日間。しかも『富士山に行った』人の多くは、登頂そのものには挑みません。かたや食のエリアは、まるで逆の資産です。一年じゅう開いていて、安くて、正午前ならほとんど誰も並んでいない。
ここはまだ仮説です。それでも私は、多くの旅行者にとって賢い富士山の一日は、山頂ではなく『一杯』を中心に組むものだと思っています。朝いちばんの富士回遊に乗り、湖畔に人波が押し寄せる前にほうとう不動か小作で一鍋を平らげ、混雑がゆるむ午後にラベンダーや溶岩洞を歩く。登頂は、たしかに偉業。でも『食』は、この場所そのものです。そして、確実にうまくやれるのは、きっとこちらのほうですよ。
本命はほうとう。幅広の小麦麺を、かぼちゃや野菜といっしょに味噌仕立ての汁で鉄鍋煮込みにした一皿で、山梨を代表する郷土食です。河口湖のまわりでぜひ一杯を。もう一つの地元の皿が、富士吉田の吉田うどん。日本一コシが強い部類として知られ、甘辛く煮た馬肉とキャベツをのせます。どちらも山の暮らしが生んだ料理で、温かい昼に食べるのが一番ですよ。
ほうとうは山梨の鍋料理。塩を打たない幅広の平麺を生のまま味噌汁に落とし、かぼちゃや根菜と煮込みます。麺が汁の中でそのまま煮えるので、汁がとろみを帯びてシチューのよう。見た目以上に食べごたえがあります。一鍋はおよそ¥1,200〜1,800で、しっかり空腹の一人前、少食なら二人でシェアできる量ですよ。
最も有名な専門店は『ほうとう不動』で、4店舗を構えます。便利さなら河口湖駅前店、雲のような建築を楽しむなら東恋路店。『甲州ほうとう小作』は駅近くの水車が目印で、鴨や辛口カルビなど十数種のバリエーション。『ほうとう蔵 冨成』は、黄金色の汁が自慢の特別な一軒です。いずれも河口湖のまわりで見つかりますよ。
とにかく早めに食べること。河口湖エリアはピーク時に人が一気に押し寄せる流れの中にあり、湖畔の店は午前の遅い時間から埋まりはじめます。富士吉田の桜イベントは、たった一年で約60,000人から270,000人へ急増したほど。新宿から早い富士回遊(約1時間53分・約¥4,130)に乗って11時半ごろに一杯、午後はラベンダーや洞窟、展望へまわるのがおすすめです。