
横須賀の観光モデルコースは、たいてい「見どころ」を中心に組まれます。戦艦、バーガー、島、港——並べておけば一日は自然にまとまる、という前提です。でも、もっと役に立つ組み立ての軸は、実は時刻表のほうです。この日の主役である無人島・猿島へのフェリーは、三笠桟橋から1時間に1本しか出ていません。始発が8:30、最終の戻りが17:00、往きは毎時:30、帰りは毎時:45。この一つの制約こそが、一日全体の形を決めます。人で混み合う鎌倉や箱根と違い、横須賀で行列に並ぶことはまずありません。希少なのはホームの空きスペースではなく、「次の便」なのです。
しかも、本当に近い。京急本線なら品川から横須賀中央まで1時間弱で着き、主な見どころはそこから徒歩か短いバスで回れます。だから問うべきは「横須賀に一日で収まるか」ではなく、「フェリーの時計に合わせてルートを組むか、それとも午後じゅう時刻表と格闘するか」なのです。
船から逆算すれば、一日は勝手に決まっていきます。猿島への渡りは片道約10分、料金は大人が往復¥1,300、小学生が¥650。便が1時間に1本で最終の戻りが17:00という事情から、島は「真ん中に置く固定アンカー」として扱うのが正解です。午前遅め、あるいは正午過ぎの便に乗り、砲台跡とビーチでまるまる2時間ほどを過ごせば、午後を残したまま桟橋に戻れます。狙った便を逃すと、失うのは数分ではなく1時間です。
実際に歩いてみると、このリズムは一日を縛るどころか、むしろ良くしてくれると感じます。戦艦三笠は同じ桟橋のすぐ脇にあるので、午前は自然と効率よく回ることになり、島ではあらかじめ「ゆっくりの1時間」が組み込まれる——そして、まさにそこが横須賀のいちばん報われる時間帯です。なお、時刻表はオフシーズンに縮むので、冬の静かな平日は出かける前に始発と最終便を確認しておきましょう。8:30〜17:00というのは、あくまで暖かい季節の形です。
品川からは京急本線で横須賀中央へ、1時間弱。鉄道2ルートのうち速いほうで、以下に挙げるほぼすべての場所へ徒歩か地元のバスで行けます。もう一方のJR横須賀線(東京駅から横須賀駅まで約1時間20分)も使えますが、ドブ板通りや三笠公園からはやや離れた場所に着くため、島とグルメが目当てなら京急のほうがすっきりします。
時刻表が報いてくれるルートは、順番どおりに進みます。まず開園と同時に三笠公園で戦艦を見て、徒歩15分でドブ板通りへ移動して早めの昼食、それから三笠桟橋に戻って午後早めの便で猿島へ。これで桟橋脇の二つの見どころをまとめて消化でき、17:00の便まで余裕をたっぷり残して島に上陸できます。光が落ちはじめる夕方は、港とバラ園のために空けておけます。
横須賀の素直なご当地グルメは、米海軍基地からの直接の遺産です。よこすか海軍カレーのルーツは1872年、基地が水兵の脚気対策としてイギリス式カレーを採り入れたことに遡り、街は1908年の海軍レシピをもとに1999年にご当地ブランドとして復活させました。ネイビーバーガーはその戦後の相棒——粗挽き牛肉100%の分厚いパティをフランスパンのバンズで挟んだ一品——で、チェリーチーズケーキが三点セットを締めます。基地のそばにスカジャン店と水兵向けのバーが並ぶドブ板通りなら、この三つを一度の食事で味わえます。
覚えておく価値のある名前をいくつか。ドブ板通りのアメリカンダイナー「TSUNAMI」は、三つの定番を一度の来店ですべて出してくれる数少ない店の一つ。1968年創業の「HONEYBEE」は食べログのハンバーガー百名店に選ばれ、同じ三点を組んだ「横須賀グルメプレート」を看板にしています。「Yokosuka Shell(ヨコスカシェル)」はネイビーバーガーとニューヨークスタイルのチェリーチーズケーキを、基地そのものから提供されたレシピで作っています。基地の街らしく、どの料理も気取らず、量たっぷりで、その出自を誇りにしています。
猿島が一日のアンカーにふさわしいのには理由があります。無人島に残る明治期のレンガ造りの砲台トンネルと砲座は、緑に飲み込まれ、誰もが決まって「まるでジブリ」と口にするほど。湿ったレンガ、シダ、こもれび——小さなビーチやBBQエリアもあり、長居もできます。厳めしくではなく、やわらかく朽ちていった、めずらしい遺構です。桟橋に戻れば、戦艦三笠がその硬質な対比。1904〜05年の日露戦争で東郷平八郎の旗艦となった船で、歩いて乗り込める記念艦として保存され、現存する世界最古の鋼鉄製戦艦とうたわれています。
もう一日を長くするなら、さらに二つ。よこすか軍港めぐりは三笠公園のそばから出航し、稼働中の米海軍と海上自衛隊の基地をぐるりと巡って、駆逐艦・潜水艦・空母を艦番号が読めるほど間近に通り過ぎます。動いている艦隊をこの距離で見られる場所は、日本のほかにありません。あるいは港から海岸へ目先を変えて観音崎公園へ。1868年に着工された日本初の洋式灯台・観音埼灯台があり、森と海辺の遊歩道が横須賀美術館の方へと続いています。
一日の締めは、軍港のかたわらにあるフランス式の臨海庭園・ヴェルニー公園で。バラ園はおよそ130品種・約1,300株に及び、年に2回——5月の春のローズフェスタと10月の秋のローズフェスタで咲きます。どちらかのピークに合わせれば、手前にバラ、水の向こうに灰色の軍艦という、これ以上ないほど横須賀らしい一枚が手に入ります。
ここからは少し逆張りの読みです。横須賀は東京から1時間、本物の無人島、歩いて乗り込める戦艦、艦隊クルーズ、そしてほかでは得られない食文化を持っている——それでいて、鎌倉のような人波を集めることはない。混雑の上限を決めているのが「観光客の壁」ではなく「1時間に1本のフェリー」だからこそ、時刻表に合わせて計画する人は、もっと有名なら確実に押し寄せられているはずの場所を、ほぼ貸し切りで味わえます。
季節の計算がそれを尖らせます。地元の人が挙げる人の薄い時期——5月から6月、そして9月下旬——は、ヴェルニー公園のバラのピークと、開けた島や海岸の遊歩道に最適な天候とちょうど重なります。データを見ると、少し見方が変わります。ここはまだ仮説ですが、論理は通っています。目的地がこれほど質に対して「割安」なとき、賢い一手は違う見どころを選ぶことではなく、正しい月と正しい船を選ぶこと。フェリーの時計さえ合わせれば、東京のほとんどがそこにあると気づいていない横須賀を、あなたは見たことになります。
十分まわれます。品川から京急本線で1時間弱、一日あれば戦艦三笠、ドブ板通りのネイビープレート、猿島フェリー、夕暮れのバラの咲く港まで網羅できます。島を省けば半日でもOK。本当の制約は時間ではなく、1時間に1本のフェリーのほうです。
三笠桟橋から1時間に1本——始発が8:30、最終の戻りが17:00、往きは毎時:30、帰りは毎時:45で、片道は約10分です。往復料金は大人¥1,300、小学生¥650。オフシーズンは時刻表が縮むので、当日に始発と最終便を確認しておきましょう。
5〜6月と9月下旬が狙い目です。気候が穏やかで人も少なく、ヴェルニー公園の春と秋のバラのピークとも重なります。横須賀は鎌倉のように混むことがまずないので、タイミングは行列を避けるためではなく、フェリーと天候とバラに合わせるためのものです。
控えめです。東京からの京急の片道運賃、往復¥1,300の猿島フェリー、戦艦三笠の入場、ネイビーバーガーかカレーの昼食を見込めば十分。軍港めぐりなどの追加を除けば、ゆったりした一日でも一人あたり数千円台に収まります。