
「東京から横須賀へどう行くか」という問いに、多くの乗換案内は最速の一路線だけを示して終わります。でも、それは問いの立て方が違います。横須賀は、ひとつの中心地に向かうひとつの鉄道で結ばれた街ではありません。港を挟んで反対側に着く、ライバル2路線に分かれているのです。両者はおよそ1キロ、しかも丘ひとつ分だけ離れています。路線を間違えれば、一日の最初の20分を、わざわざ見に来たものへ向かって歩き戻ることに費やすことになります。だから本当の判断軸は「速さ」ではありません。「あなたが目指すのはどちらの横須賀か」なのです。
前提となるデータを並べてみます。京急本線は品川から横須賀中央まで1時間以内、特急(快特)ならむしろ35〜40分に近く、運賃は¥600-800ほど。一方のJR横須賀線は東京駅から横須賀駅まで約1時間20分です。時計の上では京急の圧勝。けれど、この2路線は合流しません。降ろされる「玄関」がまるで違うのです。京急の横須賀中央は海軍の街の中心とどぶ板通りに、JRの横須賀駅はヴェルニー公園と軍港のすぐそばに着きます。数字をよく見ると、少し見方が変わります。港が目的地なら、「遅い」はずの路線のほうが実は速い。反対側で街を横断するひと手間が省けるからです。
横須賀中央で降りれば、数分でどぶ板通りです。米軍基地に寄り添うように育った通りで、スカジャンの土産店、バー、そして両国の水兵たちを何十年も支えてきたアメリカンスタイルのダイナーが並びます。この街を代表する食はここにあり、それは決して後付けのブランディングではありません。横須賀海軍カレーのルーツは1872年、脚気と戦うために基地が英国式カレーを採り入れた頃にさかのぼります。市は1908年の海軍レシピをもとに、1999年に地域ブランドとして復活させました。その歴史こそが、京急側が「食の側」である理由なのです。
JR側を選べば、ダイナーの代わりに水辺が手に入ります。ヴェルニー公園のバラ園は約130種・およそ1,300株。軍港のすぐ脇にあり、年に2度の見頃を迎えます。5月の「春のローズフェスタ」と10月の「秋のローズフェスタ」です。この開花期は、地元の人がもともと勧める訪問月とほぼぴたりと重なります。気候が穏やかで人出も落ち着く5〜6月と9月下旬。日にちを選べるなら、このどれかを選ぶのが正解です。
現地での実用的な動き方は、京急で着いたその足をそのまま昼食へ歩かせることです。狙うべき一皿はヨコスカネイビーバーガー。粗びき100%ビーフの分厚いパティをフランスパンのバンズで挟んだ一品で、いちばん効率がいいのは横須賀の名物3点を一度に頼む注文です。どぶ板通りのTSUNAMIは、ネイビーバーガー・海軍カレー・チェリーチーズケーキを一度に味わえる数少ない店のひとつ。1968年創業で食べログのハンバーガー百名店にも名を連ねるHONEYBEEは、同じ3点を「よこすかグルメプレート」に仕立てています。源流の味を確かめたいなら、米海軍基地から手渡されたレシピをもとにするヨコスカシェルへ。食が一駅まわりに集まっているので、献立を「計画する」というより、歩いて出会う感覚になります。
到着ルートを最適化する価値があるのは、その先がそれに見合うものを返してくれる場合だけです。横須賀の魅力は珍しいほど水辺に凝縮しています。三笠公園の戦艦三笠は、1904〜05年の日露戦争で東郷平八郎が率いた旗艦。いまは乗船して見学できる記念艦で、現存する世界最古の鋼鉄戦艦とうたわれています。その脇の桟橋から出る軍港めぐりは、現役の米海軍と海上自衛隊の基地のそばをすり抜け、駆逐艦や潜水艦、ときには空母の艦番号まで読めるほど近くを進みます。さらに三笠桟橋からは、10分のフェリーで猿島へ。明治期の砲台跡と緑に呑み込まれたレンガのトンネルが残る無人島で、人が思わず「ジブリのよう」と口にするたぐいの場所です。船は1時間おき、始発はおおむね8:30、最終便はおよそ17:00、往復で約¥1,300(小学生は約¥650)。もっとゆったりした半日なら、観音崎公園には1868年に着工した日本初の洋式灯台があり、森の遊歩道が美術館の方へと下っていきます。
ここはまだ仮説ですが、アクセスのパターンが、いい横須賀旅の「リズム」を静かに決めています。看板どころ──三笠、クルーズ、猿島フェリー──はすべてJR・汐入側から歩ける範囲に集まっていて、しかもその最終フェリーが17:00ごろに出てしまう。だからこの一日は、速い電車でゆっくり始めるより、早めの到着と意図した順番を選んだほうが報われます。実際に歩いていると分かるのですが、うまくいく形は乗換案内の助言とほとんど逆です。京急で横須賀中央へ行き、元気なうちに海軍プレートを食べ、それから午後の光が水面に差すなか、港と船のほうへ丘を下っていく。最速の路線はやはり勝ちます。ただし時刻表が言う理由でではありません。それが「食のある場所」へ降ろしてくれて、思いのほか早く閉まる港を一日の後半に回せるから、勝つのです。
品川から京急本線がいちばん速くて安い選択です。快特(特急)に乗れば横須賀中央まで乗り換えなし1時間以内、しばしば35〜40分ほどで、運賃は¥600-800ほど。東京駅からのJR横須賀線は約1時間20分の別ルートで、ヴェルニー公園や軍港に近い側に着きます。きっぷはICカードをタッチするだけ。日帰りならパスは不要です。
どぶ板通りやネイビーバーガーのダイナー、街の中心へは横須賀中央(京急)。戦艦三笠、軍港めぐりクルーズ、ヴェルニー公園のバラ、猿島フェリーへは、JR横須賀駅、または京急でひと駅手前の汐入で降りるのがおすすめ。どちらも港まで歩いてすぐです。
地元の人が挙げるのは、気候が穏やかで人出も落ち着く5〜6月と9月下旬。この時期はヴェルニー公園のバラの見頃ともちょうど重なり、5月の「春のローズフェスタ」と10月の「秋のローズフェスタ」を挟みます。だから5月の訪問なら、いいタイミングと満開の庭園の両方が手に入ります。
海軍の歴史、米軍基地由来の食文化、そして気軽に渡れるフェリーの島歩き──そんなテーマのはっきりした半日が欲しいなら、答えはイエスです。見どころが珍しいほど港の近くに集まっているので、移動時間は十分に元が取れます。ひとつだけ注意を。猿島フェリーの最終便は17:00ごろなので、のんびり出発するより早めの到着が勝ちます。