
おいしいもののためだけに、新幹線に乗ってしまう週末があってもいいと思うんです。東京から約60〜70分・片道およそ¥6,000で、駅を出ればひんやりした高原の空気と、石窯パンの香ばしい匂いに包まれます。信州の手打ちそばと味噌とチーズに、100年続くリゾートのパンとコーヒーが重なる、二重においしい町。この味を目当てに、年間およそ840万人がやって来ます。
先に種明かしをしてしまいましょう。軽井沢は、店選びで失敗しにくい町です。町いちばんのレビュー数を誇るベーカリー&レストラン サワムラは、Googleレビュー約3,900件で4.3★。そばの川上庵本店も約3,400件で4.1★と、ほぼ肩を並べます。チーズ工房アトリエ・ド・フロマージュのピッツェリアだって約1,000件で4.3★。口コミを読み込んでみると、4.7★のような飛び抜けた店がない代わりに、行く価値のある店で4.0を下回る例もほとんど見当たらないんです。つまりここは、隠れた名店とハズレの観光客向け店が入り混じる町ではなく、「安定しておいしくて値段も手頃な店が、決まった時間帯にだけ混む町」。地元の混雑カレンダーによれば、旧軽井沢銀座通りとアウトレット周辺のピークは週末の11:00〜15:00です。食事の満足度を分けるのは店選びではなく、じつは時計のほうなんですよ。
軽井沢が立つのは、かつて信州と呼ばれた長野県の標高約950m。この山の食文化こそ、ここで食事をする本当の理由です。まず向かいたいのが、旧軽井沢銀座通りの入口に構える川上庵本店。天井の高い店内には低くジャズが流れ、席に着くころには、そばつゆの香りがふわりと漂ってきます。名物は、粗挽きの二八そばを冷たいせいろで、熱い鴨汁にくぐらせていただく鴨せいろ。この一枚のためだけに軽井沢まで来る価値がある、と正直思います。食べログの「そば百名店」に2021年と2024年に選出され、英語メニューも用意された人気店。それだけに昼どきの行列は覚悟がいりますが、口コミでは夜のほうがずっと入りやすいという声が目立ちますよ。対になるのが、かぎもとや(4.0★、約1,300件)。しなの鉄道でひと駅・約4分の中軽井沢駅前で、手打ちのそばとうどんをランチ¥1,000〜1,900ほどで出す店です。席を埋めるのは観光客より地元の常連さん。その日常の湯気に、そっと混ざってみては。
軽井沢グルメのもう半分は、宣教師や東京の別荘族が100年かけて育てたパンとコーヒーの文化です。銀座通りのブランジェ浅野屋は、扉を開けた瞬間、石窯で焼けたパンの香ばしさに包まれる一軒。1933年からこの通りでヨーロッパパンを焼き続け、当時のお客は外交官や避暑の別荘族でした。店の奥には昔の丸い石窯が今も見えていて、小さなイートインコーナーはすぐ満席になります。駅側から歩いてくる途中で出会うサワムラは、新興の実力派。森のロッジ風の一軒に自家製天然酵母のパンと本格レストランが同居し、レビュー数は町でNo.1です。その2軒の間をつなぐ食べ歩きの定番が、ミカドコーヒーのモカソフト(4.2★、約880件)。1969年から続く味わいで、1970年代後半に万平ホテルで夏を過ごしたジョン・レノンも常連だったと広く語り継がれています。買うならテイクアウト窓口が正解。2階のカフェは割高だという点で、口コミの意見はきれいに一致しているんです。腰を落ち着けて贅沢したい日は、ロティスリー・ピレネーへ。ダイニングの薪火で丸鶏や地元の豚がじりじりと焼ける音は、待つ時間までごちそうです。ランチでも¥3,000以上は見ておきたい店なので、ここだけは予約してから向かうのが安心ですよ。
北陸新幹線に乗ってしまえば、東京から軽井沢まで約60〜70分。片道はおよそ¥6,000で、東京ワイドパスの範囲内です。気をつけたいのはひとつだけ。「かがやき」は軽井沢に停まらないので、乗るのは「あさま」か「はくたか」ですよ。駅から銀座通りまでは徒歩15〜20分、広く回るならレンタサイクルが定番の足になります。おすすめの時間割はシンプル。10:00までに町へ着き、11:30前にそばの行列に並んでしまえば、週末の混雑が本格化する前においしい一杯にありつけます。土曜の正午着になりそうな日は、先に中軽井沢へ向かう順番に組み替えるのが賢いはず。もうひとつだけ付け加えると、ここの個人店は平日不定休が多く、オフシーズンは営業時間も短くなります。一軒を目当てに一日を組むなら、その週の営業時間だけは確かめてから出かけてくださいね。
しなの鉄道でひと駅下ると、車の音が川のせせらぎに変わります。中軽井沢のハルニレテラスは、湯川沿いに自生する約100本のハルニレ(春楡)の木立を縫うように、ウッドデッキで16のショップとレストランをつないだ場所。そば、ジェラート、ベーカリーと選び放題で、散策そのものは無料です。このあたりでは随一の、雨の日の逃げ場でもありますよ。駅前にはそばのかぎもとや、その少し先には星野温泉 トンボの湯(通常期¥1,350、10:00〜22:00)。ランチのあと、森を望む露天の岩風呂にとぷんと浸かる。この流れは銀座通りでは組めません。実際にふたつのエリアを歩き比べてみると、空気の違いがよくわかります。観光客向けの顔で忙しい銀座通りに対して、中軽井沢はただ、いつもどおりの一日を送っているんです。
旧軽井沢銀座は、たしかに魅力的な通りです。ただ正直に言うと、一部は似た顔の土産物店が続き、値段も高め。浅野屋やミカド、静かな教会の小道といった本当の見どころは、駅から遠い通りの奥で待っています。だからおすすめしたいのが、朝早い新幹線で入る「逆回り」の一日。11:00の混雑の波が来る前に銀座通りで食事を済ませ、午後は中軽井沢へ譲ってしまうプランです。評価は銀座通りと変わらないのに、行列だけがない。季節も味方につけましょう。にぎわいの山は夏の3か月で、年間の来訪者の半数以上がこの短い季節に集中します。秋が占めるのは約4分の1ほど。だから9月〜10月上旬に訪れれば、同じ店を数分の一の待ち時間で楽しめるんです。しかも紅葉は、東京より数週間早くやってきますよ。
そばとパン、ふたつの伝統が仲良く並んでいる町です。信州の山側からは、手打ちの二八そば(まずは川上庵の鴨せいろを)、信州味噌、高原のチーズ。リゾート側からは、1933年創業のブランジェ浅野屋、天然酵母パンのサワムラ、そして1969年から愛され続けるミカドコーヒーのモカソフト。100年かけて育った食べ歩き文化ごと、味わってみてはいかがでしょう。
有名店が揃うのは、駅から徒歩15〜20分の旧軽井沢銀座です。ただし週末の11:00〜15:00は、行列と観光地価格が付いてきます。静かに味わいたい日は、しなの鉄道でひと駅の中軽井沢へ。かぎもとやのそばや、ハルニレテラスの川沿いに連なる16店舗を、ぐっと短い待ち時間で楽しめますよ。
ほとんどの店は予約なしで大丈夫です。そば店やベーカリー、カフェはふらりと入れますが、人気店の昼どきだけは行列を覚悟して。ロティスリー・ピレネーのような贅沢めの一軒は、事前予約が安心です。個人店は平日不定休が多く、オフシーズンは時短営業もあるので、その週の営業時間だけ確かめておくのがおすすめですよ。
そばランチなら、かぎもとやで¥1,000〜1,900、川上庵で¥1,500〜2,500ほど。ベーカリーのパンは数百円で食べ歩けます。薪火ローストのロティスリー・ピレネーは、ランチで¥3,000〜5,000程度が目安。いずれも当日の最新メニューでご確認くださいね。